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魔女と俺 01

  • 2010/03/05(金)

魔女と俺 01. - はじまり (注: 第1話はTS無し)

その日、俺は仕事が終わり、帰宅するべく夜の町を歩いていた。
不意に昼間のように明るくなったかと思うと、体が動かなくなっていた。歩いている最中だったのだが、無意識のうちに自然に立ち止まり、その場所で立ったまま硬直した、そんな状況だ。

え、ええ? どうなってんだ? 誰か! 助けてくれええー。 !! 声が出ない! 周囲の人間は何事もないかのように俺の側を通り過ぎていく。

何だ? 何が起こっている? とりあえず落ち着くんだ、俺。何回も大きく深呼吸を繰り返す。 ……少し落ち着いた。 自分の状況を確認する。
眼は動く。まばたきも自由だ。あとは動かすことが全くできない。 呼吸は……している。 心臓も動いている。 全身の感覚は残っている。脱力はしていない。直立不動の姿勢を維持するために、足の筋肉に時々力が入っているのがわかる。立つこと以外の行動を規制されているというのが正確なところか。

制限された視界の中をよく観察してみる。俺以外の人間は何事もないかのように道を歩いている。俺のことは、見えてはいるようだ。俺に視点は合っていないのに、俺を迂回して通り過ぎていく。とても自然な動きで、おそらく自分が迂回していることにも意識していないように思われる。
もう一つのことに気付いた。あたり一面が明るくなったのではなく、俺が光に包まれている。地面に光で線が描かれている。前方の一部しか見えないが、きれいな弧を描いており、おそらく俺を中心とした直径1メートルくらいの円だ。内部にはこれまた光の線が複雑な模様を描いている。光は地面に描かれたその線から垂直に発しているようだ。
……これは、魔法陣、か? 常識はずれにも程があるが、そう思うしかない。誰が何のために? 何の特技もないサラリーマンをどうしようってんだ?

突然光が強くなり、何も見えなくなったかと思うと、何とも言えない、内部からねじられるような感覚が全身を襲った。同時に果てしなく落下するかのような感覚。
うわあああああああああああああああ。俺は声にならない叫び声を上げ続けた。


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ああああああああああああ。……あ?
いきなり落下感が消失した。同時に、両足で立っていることに気付いた。
暗闇ではなく、薄暗い照明が、天井に見える。光にくらんだ目が慣れてくるまで時間がかかった。相変わらず体は動かない。
次第に周囲のものが見えるようになってきた。いつの間にか俺は見知らぬ部屋の中にいた。8畳くらいか。
目の前に女が立っている。20歳後半くらいか。疲れたような表情。かなり美人だ。いい乳をしている。尻も張りがあってそそられる。露出の多い派手な服。コスプレ? ……魔女、それも悪役の衣装だな。
俺をじろじろと見ていた女が、口を開いた。

「我が呼びかけに応じて頂き、感謝する。 ……古の約定に基づき要求する。我が剣、我が盾となりたまえ……」
そのあと聞き取れない呪文のような言葉がしばらく続いた。
やがて、目の前の空間が凝縮するように見え、黒い文字のようなものが浮かび上がった。数秒の間。予想通り、文字は俺に向かって真っ直ぐ飛んできて、胸に貼り付いた。
瞬間、全身を衝撃が駆け回った。俺は声もなく全身を痙攀させた。
痙攀がおさまると、体に自由が戻っていた。床に座り込む。あまりの展開に頭がついていかず、呆然とする。


「……これで、契約は完了。これからよろしくね? 私はアヤネ。 あなたはなんて呼んだらいい? 能力は何があるの?」
「……何がどうなっているのか、さっぱりわかんねえ。 会社が終わって家に帰る所だったのに……」
「魔界にも会社なんてあるんだ? なんだかおかしい。どんな仕事してるの?」
「コンビニでなんの弁当買うか考えていたのに……ああ、明日は休みだから今日は朝までゲームできるな……」
「……! ちょっと! あなたもしかして人間?」
女ががくがくと俺を揺さぶった。俺はようやく女がいたことを思い出す。頭がはっきりしてきた。

「確かにどうみても、そこらへんの冴えない人間だけど! そんなはずないよね? 上級魔族は見た目が人間と変わらないんだよね?」
「……ああ? 何わけわかんねえこと言ってやがる。俺はれっきとした人間だ。日本人独身サラリーマン、特技なし。……ああ、格闘ゲームは割と得意なほうだ」

「そ、そんなはずは」
今度は女が呆然とする。しばらく時間が流れ。そして、怒り始めた。

「……なんでただの人間が召喚魔法でやってくるのよっ。契約しちゃったじゃない! 再契約にどれほどの手間暇費用がかかると思ってるの! 違うなら違うって最初に言ってよっ」
「……喋れなかったし」
「ぐ……。と、とにかく、契約したからには当分の間は私と一緒に戦ってもらうからね。……本当に何もできないの?」
「自慢じゃないが、戦うどころかスポーツすら生まれてこの方したこと、ない」
「何か、何かあるはずだよ。呼ばれたからには、何かあるはず」
「そう言われてもなあ。何もない、な」
「ちょっと調べさせて」

女がなにやらぶつぶつとつぶやくと、全身がくすぐられるような感覚が湧き上がった。刺激は皮膚にとどまらず、腹の中、心臓、頭の中までくまなくくすぐられる。
「うははははは。ちょっと待てっ。わはははははははっやめろっこのあまっ」
「うるさいなあ……」
突然声が出なくなった。くそっこの女また何かしやがったな。俺は無言で悶え続けた。


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拷問は突然終わった。俺は床にぐったりと横たわっている。もう何もできねえ。

「なるほど。わかったよ。なるべく使いたくないけど……まあ仕方ないか」
「……結局何だったんだ」
「まあそのうちわかるよ。 今日はもう帰っていいよ。必要なときにまた呼ぶから」
「二度と来るかよ。会社もあるし、つきあってられるか」
「あんたの意志は関係ないよ。だって呼んだら問答無用で即テレポートだもん」
「なんだそれは。ふざけんじゃねえ!」
「そういう契約だし」
「俺の生活はどうなるんだよ!」
「さあ? じゃあねーおやすみー」

女が何か唱えた途端、視界が歪み、暗転した。気がつくと、通勤途中の路上に立っていた。激しい倦怠感。なんとか、歩くことはできた。

夢……じゃあ、ないんだよな……
胸にくっきりと読めない文字があることを確認した俺は暗澹たる気持ちで家に向かって歩き出した。

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